『 魅惑のスパイスワールドを巡る旅 』 


 
私のアジア旅の起点となったインドネシアは、13000以上の島国からなる共和国。初めてのインドネシアは観光で有名なバリ島である。バリ島を訪れたのは1998年の6月。3泊5日という短い時間の中で、バリ人のガイドがスケジュールをパンパンに詰め込み、市場や高原、銀細工や木彫りの工房、食堂やスパなど、とにかく様々な場所へ連れて行ってくれたのを覚えている。

 インドネシア人の生き抜くためのパワーと、奔放に広がる大自然に魅せられたが、何よりも私の心をつかんだのは、彼らの生活に深く浸透している「スパイス使い」であった。インドネシアの人は、スパイスを実に多様に使いこなして生活を営んでいる。料理だけでなく飲み物やデザートに使うことはもちろんのこと、マッサージに、薬に、インテリアに…といった具合である。バリ島に行った後に初めてインドネシアが3大スパイス王国だということを知り、また、食べることのみで認知していたスパイスの使い方がこれほどまでに幅広く、人々の健康を守っているということを目の当たりにして、「スパイスを辿る旅」をしてみたいと思うようになった。

 スパイスから広がる世界として、私自身が魅力を感じるのは「食」、「マッサージ」、「漢方薬」の分野である。そこで、私はそれらについてあれこれと調べ、まずは取り組みやすい料理の世界からスパイスを紐解いてみた。もともとスパイス料理が大好きな食いしん坊で、食への探究心もひと一倍。インドよりも繊細なインドネシア料理には、何気ない料理でもたいてい5,6種類のスパイスが使われている。作るごとに奥の深さを見せてくれるインドネシア料理の魅力に、私はグイグイと引き込まれていった。現地で石鉢を購入し、固形のスパイスをゴリゴリと引きながら、舌で覚えた現地の味を再現するべく日々試作。インドネシアは島の数だけ文化があると言われている。料理もしかり。バリ島でジャワ島、スンダ島と各地の料理を食べさせてくれるワルンも多々あれど、恐らく本場で食べる料理とは少し違ったものであるに違いない…そう思うと、ゴリゴリとやりながら、「いつかは他の島へ行ってみなければ…」と思うのであった。

 続けて魅力を感じたのは「マッサージ」。肩こりが酷く、マッサージマニアな私は、インドネシアへ行くと必ずマッサージに行く。中でも初めてマンディ・ルルールを受けたときは大きなショックを受けた。「こんなところにもスパイスが…」マンディ・ルルールは、スパイスミックスを使った「ボレ」で施術する角質取りのマッサージ。快適な旅でのこうした体験は、私のスパイス探究心をどんどんとあおっていく。

さらに旅での疲れを感じた時に現地の人からいつも進められる「ジャムゥ」が、スパイスを巡る旅を想起させてくれるきっかけとなった。ジャムゥ屋さんに体調を告げると、つぼからスパイスを出してあれこれと混ぜ、たっぷりのミルクやハニーを入れて調合してくれたジャムゥが出来あがる。さすがにこれはおいしいとは言い難いが、中国でいうところの漢方薬。ナチュラルで体にとてもよいのである。試しにセクシーになるジャムゥとオーダーして飲んだ時には、体が熱くなり、テンションが上がって大変だった…なんてこともあったっけ。

こうしてすっかりスパイスの虜となった私は、様々な角度からスパイスについて調べてみた。すると、マッサージや漢方薬のルーツはジャワ島にあるということがわかってきたそんなある時、バリ島へ行った帰りに隣の席へインドネシア人のご夫婦が座ったときのこと。何でもご主人は製薬会社の人だというので、私はすかさずジャムゥについて話を聞いてみた。するとその人は「中央ジャワへ行ってみるのがいいよ」とアドバイスをくれた。ジャワ島はインドネシアのベースカルチャーを最初に作りあげたインドネシア最大の島。彼の話によると、中でもソロ、スマラン、ジョクジャカルタへ行くと、ジャムゥやマッサージといったことについての見聞を広げる場所があるのだそうだ。さらに調べていくと、その昔、マルク諸島のアンボンというところもスパイス貿易が盛んだったということを知り、スパイス使いのルーツがここにもあるのではないかと頭の中でのイメージが大きく膨らんでいく。

 インドネシア料理からジャムゥ、マッサージと広がった魅惑のスパイスワールド。こうしたスパイス使いを日々の生活にも少しずつ取り入れた私のジャパニーズ・インドネシアンライフに磨きをかけるため、スマラン、ジョクジャカルタ、ソロ、アンボンとスパイスのルーツを巡る旅で、さらに色々なものを見聞して、たくさんのことを知り、学びたいと思ったのであった。